Yasuragi 〜大安寧〜
関心メモ / 半SF好奇心の種
村の女をさらうことに飽きた鬼は、東京へ行った。
もっと綺麗な女が港区にいると聞いたからだ。
鬼は港区の女をさらい、夫がいれば、その者を食らった。
そして女を島へ連れて帰った。
村の人たちは、東京で流れる恐ろしい噂を聞きながらも、自分たちの身に安全が訪れたことを祝った。
鬼はというと、多くの子を授かった。
やがて、住む場所を変えることにした。
昔から、人々の居住区のはずれに住むのが鬼の習性である。
港区はキラキラしていて、どうにも嫌だった。
仕方がないので、江東区の東京湾エリアに適当な埋立地を作り、住処にした。
鬼が島TOKYO。
そこでは、さらった港区女子たちが毎日鬼に尽くし、子も育っていった。
ある日、鬼はふと違和感を覚えた。
子の顔が、なんか違う気がするのだ。
鬼に似てミニ角があるから可愛くないとか、そういうわけではない。
ミニ角はむしろ、ちょっと可愛かった。
問題は、目とか鼻筋とかが、全然さらった女たちの系統っぽくないことだった。
鬼ははじめ、中央区あたりのよその子どもたちが島に遊びに来たのかと思った。
だが、それはない。
島は世の中から隔離されており、ウーバーイーツの配達員くらいしか来ない。
もっとも、ご飯になるのはウーバーイーツのお兄さん自身なのだが。
そういえば、綺麗だった港区女子たちも、最近なんだか以前と顔が違う気がする。
老けたにしては、身体のあらゆるところがだるんだるんになっている。
脂肪ではない。
皮膚感が、だるんだるんなのだ。
鬼は港区女子たちに尋ねた。
「なぜ子の顔は私たちに似ていないのか。そもそも、お前たちまで、どうしてそんなにだるんだるんなのか」
港区女子たちは、突然、憎悪の目になって言った。
「それは、あなたがこの島から出してくれないからだよー!!」
「返せー!」
「お人形さんみたいだった私の身体、返せー!」
「壊したな!」
「コワシタナー!」
鬼は、ただならぬ圧を感じた。
その瞬間、港区女子たちの皮膚は急にどろどろと溶けはじめ、蝋人形のような姿になって鬼を取り囲んだ。
鬼は恐怖のあまり走って、中央区へ逃げようとした。
蝋人形たちが追いかける。
溶ける皮膚からこぼれるシリコンのような液体が、地面をつやつやに濡らしていく。
瞼や鼻から、糸や紐みたいなもの、メタルみたいなものが飛び出た者もいた。
島の重心が急に中央区側へ偏った。
軟弱な埋立地の土台に、ひびが入った。
子どもたちは、楽しいと思って何も知らずにはしゃいでいた。
鬼は、はしゃぐなと注意した。
しかし、時すでに遅し。
島は崩れ落ち、東京湾に沈んでいった。
鬼は重いので、すぐに沈んだ。
体中のコラーゲンやヒアルロン酸が水に浮いて、自分たちは助かると思っていた蝋人形たちも、水溶性だったため、海の藻屑と化した。
海に浮いていたのは子どもたちだけで、通りがかった船に無事救助された。
今は孤児ではあるが、世の子どもたちとともに、バイトをしながら学校生活を送っている。
子の一人は、こう言っている。
「はやく立派に働いて、稼いで、整形したいです。まず、角を取ろうかな」
Tarachine 〜たらちね〜
生活ログ / ひとり語りの文字起こし
『台所のハンドソープ』
一人暮らしの台所で、新しいハンドソープの香りが、何十年も前のにぎやかな食卓と風呂上がりの記憶を連れてくる。現在の生活に、昔の家族の気配が一瞬だけ戻る話。
***
かれこれ、5年以上、男一人で暮らしている。
朝早く起きて、職場に向かい、夜7時から8時の間に家に帰ってきて、誰もいない中、食事をして、風呂に入り、寝る。
そのような、これからもおおよそ変わらないであろう、この生活。
つい最近、そんな私の部屋に、華やかな、そして懐かしい要素が加わった。
こんな前振りを置くと、やっと春でも来たのかと、もしくは、かわいらしい犬や猫でもペットとして招き入れたのかと、そう思われるのが相場だと思う。
だが今回のそれは、もっと実務的で、もっと地味な場所にとどまっている。
家に帰ると、一番最初にやることは、それにタッチすること。
ハンドソープだ。
最近、台所のハンドソープが切れてしまったので、近くの100円ショップで詰め替えのハンドソープを購入した。
中身を詰め替えると、私は早速ワンプッシュ、ツープッシュして、試しに手を洗った。
その瞬間、小学生の夏休みや冬休み、春休みに、いとこの家に行った頃の思い出がフラッシュバックした。
それもかなり明確で、いとこの家で、おじちゃん、おばちゃん、おばあちゃん、そして娘たち3人、遊びに来ている私と私の母と私の姉、その9名ほどで夜ご飯を食べた、その1時間、2時間後ぐらいの時間帯を、明確に思い出した。
ご飯を食べた後、そのいとこの家は非常に広い一軒家で、離れもある古い民家だったので、みんなそれぞれの部屋に散っていった。
私たち分家の一家は、ご飯を食べた部屋でそのままおばあちゃんと一緒に、夜のバラエティ番組などを見るのだが、いつもその時に、いとこのお姉ちゃんの一人が、テレビの前を横切ってお風呂に入りに行く。
そして数十分経つと、濡れた髪をタオルで拭きながら、またテレビの前を横切って行く。
その時、何の成分かは全く分からないが、多分、そのお姉ちゃん専用のシャンプーだと思う。
その香りが、ふわーっと食後のリビングに立ち込める。
その香りが、私の今住んでいる、あれからもう30年弱たった今、私が住んでいる台所のハンドソープの香りと同じなのだ。
仕事から帰ってきて、手を洗う。
そのたびに、かつて9名、10名ぐらいで食卓を囲んだこととか、いとこのお姉ちゃんがお風呂に入った後、次は誰が入るか、早くしないとまたお湯を沸かし直さないといけないから、誰でもいいから早く入って、などとみんなで譲り合ったりする、そんな光景を思い出すわけである。
Bisho-An 〜びしょう庵〜
掌編 / 物語作品
形式創作:夜の森の二匹
【作品】
カブトムシ:……。
ゴキブリ:なぜだ?
カブトムシ:どうしたというのだ?
ゴキブリ:俺もお前も、茶色い虫だ。
カブトムシ:そうだが?
ゴキブリ:なぜ、お前だけがそんなにモテる?
カブトムシ:知らない。
ゴキブリ:お前、いつも夜の森にいるよな。
カブトムシ:蜜が欲しいだけだ。
ゴキブリ:俺なんて、わざわざこっちから人の家に出向いてるんだぜ?
カブトムシ:うん。
ゴキブリ:しかも、お前、全然走らないよな。
カブトムシ:急いでも疲れるだけだろ。
ゴキブリ:俺なんて、いつも全力疾走してるんだぜ?
カブトムシ:そういうところじゃない?
ゴキブリ:何が?
カブトムシ:いや、別に。
Rinri 〜りんり〜
サウンドスケープ / 音の瞑想
0:00 - 0:04:42:00
トラック:食器洗い
フィールドノート / 背景
🗂 技術情報
- レコーダー:RODE Wireless PRO,ZOOM M2 MicTrak
- フォーマット:48kHz / 24bit / Stereo
🪶 メタデータ
- 録音:20260706、自宅
- 再生時間:0:04:42:00
- ジャンル:ambient,lifestyle
- ライセンス:All Rights Reserved
© 2026 不得井(enui) / Futagu
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本作は、好奇心・省察・創作・音を通じて意識を探る、四つの層からなるFutaguシリーズの一作です。
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