Futagu Vol.3
enui 8/4/2026
Yasuragi 〜大安寧〜
関心メモ / 半SF好奇心の種
この世には、少なくとも、ほぼ確実に1億冊以上の書籍があるらしい。
新刊、改訂版、翻訳版、電子書籍、自費出版、地域出版などを足すと、1.6億冊以上と推測される。多分、2億冊くらいはいくとのこと。
雑誌、新聞、地図、楽譜、映像、Web資料なども含めると、なんと60億点あるとか、なんとか。
これらをすべて読んだら、人はどうなるのだろうか。
1冊読むのに平均5時間という、かなり適当な見積もりをしてみる。
5時間の読書を2億回。
10億時間。
10億時間は、約11万4,000年である。
人類が農業をはじめたのが1万年前として、その11回分。
「あの人、いつも静かに読書してる。素敵だわ。どんな人なんだろう。世界にはどんな本があるのか教えてほしいな」
と、遠くから好意を持って読書家を見守る引っ込み思案の少女も、
「あの人、どれだけ読むつもり? 『読書の辞め方』というタイトルの本でも書いてプレゼントしようかしら」
と、ジョークのひとつでも飛ばして去っていく立派な姉さんに育つほどの長い時間である。
と言うには、全然整合性が取れないほどに長い時間である。
2億冊の読書。
歴史、文学、科学、漫画、宗教、ビジネス書、ギター入門、その他諸々。
人の心や考え方や行い方。
ありとあらゆる言語、言い回し、単語。
仮にこれらをすべて頭に叩き込み、記憶したらどうなるのか。
ひとつひとつの判断や行動は、果たしてどこに向かうのか。
本を10冊も読んだことのない人と、何か違うように動き出すのだろうか。
毎日ぼーっとしてしまうような一目惚れの恋をしたとき。
将来を考え直すような、味わい深い映画を観終わったとき。
大切な人がつらい思いをしているとき。
戦争に巻き込まれて、敵兵に捕まり、銃口を突きつけられたとき。
目にゴミが入ったとき。
殺虫剤を探している隙に、ゴキブリが部屋のどこかに隠れたとき。
実に怪しい。
知識よりも先に、動き始めたすべてに動かされるようにしか思えないのである。
Tarachine 〜たらちね〜
生活ログ / ひとり語りの文字起こし
『190円のモカ』
職場の120円コーヒーに飽き、500円のカフェと190円のコンビニモカを試す。値段、手間、味の釣り合いを、仕事の合間の一杯から眺め直した記録。
***
PC作業を一旦やめて席を立ち、職場のビルの中にある名前のないコンビニに向かった。
そこには1台のコーヒーマシンがあり、120円で紙カップを1つ購入し、そのままマシンのコーヒーを抽出して飲むことができる。
美味しいとは思わないが、まずいとも思わない。
カフェインを注入するにはちょうどいい金額で、いつも何も考えず購入している。
毎日そのコーヒーで、効率の落ちた作業をもう一度立ち上がらせているわけだ。
味にこだわりがないとはいえ、飽きは来る。
元来コーヒーが好きなので、もう少し本格的な、日本らしくドリップされた、新鮮な豆のコーヒーを飲みたいと思う日があった。
会社のビルから徒歩3分ほどの場所に、比較的新しいカフェがあることを聞きつけて、そこに向かった。
昼2時ごろ店内に入ると、一組だけ客がいたが、お昼ごはん後ということもあり、人は少なかった。
ホットコーヒーのテイクアウトは500円と書いてある。
昨今のスペシャルティコーヒーブームでは、600円、700円、高いと1000円を超えてくる。
それに比べると、ずいぶん安い。そう思い、ありがたくそのコーヒーを注文した。
いつもはマシンで30秒ほどで抽出できるので、待っている間の時間は少し長く感じた。
5分は確実に超えていたから、店内の備え付けのテレビを見たり、一度お手洗いを借りたりして時間を潰した。
ちょうどお手洗いから出てきた頃、テイクアウト用のカップに熱いコーヒーが注ぎ終わって、リッドも付けられた状態で手渡された。
カードで支払いを済ませ、店を出て、自分の職場への帰り道、3分ほどの距離を歩きながら、一口、二口とコーヒーを口に入れた。
まあまあ美味しい。
少なくとも、マシンで頼むより豆のノイズは少ない。
味もおそらく、エチオピアが入っているような軽いフローラルな香りもして、悪くない。
だが、「そんなに」とも思ったのが正直である。
私はそれ以来、また建物にあるマシンの120円のコーヒーをしばらく飲む日々となった。
ところがやはり、それでも飽きは来る。
また別のコーヒーを飲みたいと思ったが、そのカフェのコーヒーの味はもう折り込み済みだったので、500円を払ってあの味かと思うと、一旦敬遠した。
そして、カフェとは同じ道で方角が反対のところにコンビニがある。
白と緑を基調とした大手コンビニ。
そこには、有名バリスタがセレクトした豆、有名バリスタが監修したマシンのドリップ、それが売りとされているコーヒーマシンが置いてある。
私はそこで、モカのホットコーヒーを注文した。
金額はホットのテイクアウトで190円。
店員からカップをもらって、マシンにセットし、ボタンを押した。
このマシンも、だいたい30秒ぐらいで抽出が終わる。
そして職場に戻るのは、やはり2、3分。
カフェと同じくらいの距離なので、戻りながら一口。
私は二口目を飲む必要もなく、これをかなり美味しいと感じた。
あのカフェで飲んだ500円のコーヒーに比べて、非常に香りが立っており、わかりやすい甘みもある。
ほんの少しノイズは感じる。
でも、あの500円に対し190円という値段で、そこまで入っている内容量も変わらず、この味のクオリティ。
抽出の時間も圧倒的にカフェより早く、味も満足のいく、しっかりとした味。
普通、提供スピードというスペック、そして味というスペックで買っているのであれば、高い値段を支払って当然のわけなのだが、このコーヒーはなぜか、それよりも下回っているコーヒーより金額が低い。
貨幣経済や資本主義の面白いズレ。
それを感じながら、私はモカのコーヒーを半分ほど飲み干した。
Bisho-An 〜びしょう庵〜
掌編 / 物語作品
形式創作:撮影現場
【作品】
演出家:はい、カット! 殺されてえのか、お前?
役者:……。
演出家:ちゃんとやれよ!
役者:すみません。
演出家:どうなんだよ?
役者:本当に、死にたいと思ってます。
演出家:じゃあ、そうやれよ。
役者:はい。
演出家:やるぞ。3、2、1。
役者:「もう、死にたいよ」
演出家:はい、カット!
役者:……。
演出家:全然、伝わってこねえよ!
役者:すみません。
演出家:生きていきたいんだろ? 役者として。
役者:はい。
演出家:やってみろ。
役者:「もう、死にたいよ」
演出家:はい、だめ。役者で生きていきたいんだろ? もう一回。
役者:「もう、死にたいよ」
演出家:全然だめ。もう一回。
役者:「もう、死に……」
演出家:死んでるよ、お前。役者として。
役者:……すみません。
演出家:今日は、もうだめ。やめにしよう。撤収!
(後日)
演出家:よく来たな。
役者:申し訳ありませんでした! もう一回、やらせてください!
演出家:……わかってんだろうな?
役者:……はい。
演出家:もしだめだったら、マジで殺されると思えよ?
役者:わかりました。
演出家:見せてみろ。
役者:ありがとうございます。
演出家:3、2、1。
役者:もう、死にたいよ
演出家:はい、カット!
役者:……。
演出家:……なあ。
役者:はい。
演出家:それだよ。
役者:はい。
演出家:生きてるよ。
役者:はい。
演出家:最高だよ。それだよ、それ!
役者:え。
演出家:できるじゃねえか!
役者:ありがとうございます!
演出家:何でだ?
役者:いや……。
演出家:つかんだんだろ? お前の中で。
役者:いえ。つかんでなんていません。
演出家:ん?
役者:やめただけなんです。「かっこ」つけるの。
Rinri 〜りんり〜
サウンドスケープ / 音の瞑想
0:00 - 0:05:21:00
トラック:洗濯物干し
フィールドノート / 背景
🗂 技術情報
- レコーダー:RODE Wireless PRO,ZOOM M2 MicTrak
- フォーマット:48kHz / 24bit / Stereo
🪶 メタデータ
- 録音:20260706、自宅
- 再生時間:0:05:21:00
- ジャンル:ambient,lifestyle
- ライセンス:All Rights Reserved
© 2026 不得井(enui) / Futagu
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本作は、好奇心・省察・創作・音を通じて意識を探る、四つの層からなるFutaguシリーズの一作です。
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