第8回 本物の商品でも、正しい商流とは限らない
商品を動かすことと、信用を引き受けること
本物の商品を売っている。
その一文だけを見れば、商売はまっとうに思える。
偽物を作っているわけではない。市場で購入した商品を、別の市場で必要とする人へ届ける。価格と送料に納得した人が買う。商品が届けば、取引は成立する。
実際、並行輸入や再販売は世の中に広く存在する。正規代理店だけが、すべての流通を担っているわけではない。
だから問題は、「再販売はすべて悪い」という単純な話ではない。
問題は、商品が本物であることと、商流全体が責任を持って設計されていることが、別だという点にある。
商品には、物以外のものがついている
商品には、名前がついている。画像がある。説明文がある。品質の期待がある。保管方法がある。販売国ごとの表示や規制がある。何か起きたときに問い合わせる先がある。
消費者は、物体だけを買っているわけではない。
ブランドが長い時間をかけて作った期待と、問題があったときに誰かが対応してくれるという安心を、一緒に買っている。
販売者が正式な関係にあるように見えれば、その安心はさらに強くなる。
だから、ブランドの知らないところで商品が海外に並べられ、公式に見える画像や説明が使われると、物が本物であっても、信用の経路はねじれる。
顧客は誰を信じて買ったのか。販売者は、どこまで責任を持てるのか。ブランドは、管理していない販売の結果まで、自社への評価として受け取らなければならないのか。
正規取引は、遅くて面倒である
会社は国内の企業へ、正式な取引も提案していた。
正規取引では、相手も自分の信用を預ける。取引を始める前に、会社の実績、財務、仕入れ経路、販売先、表示、物流、品質管理を確認する。
私が直接関わった複数の商談では、信用調査や財務資料の提出、仕入れ経路、販売先や管理体制の説明を求められた。必要な確認を十分に進められず、話が止まった例があった。
相手が確認を重ねるほど、商品を見つけてすぐ掲載する方法とは異なる時間が必要になった。ここでは、複数の商談に共通していた流れを一つにまとめている。
正規取引は遅い。相手の確認を待ち、条件を合わせ、許可を得て、責任を分ける。売れそうな商品を見つけてすぐ掲載するより、はるかに手間がかかる。
一方で、知名度の低い地域商品なら、取引に応じてもらえる可能性がある。しかし、その商品を海外の顧客に見つけてもらうには、紹介し、説明し、需要を育てなければならない。既に知られた商品ほど簡単には扱えず、扱いやすい商品ほど簡単には売れない。
ここに、事業の難しさがあった。
「通っている」は「適切である」ではない
商談では、輸出入の条件について質問されることがあった。原材料や販売国の規制をどう確認しているのか。誰が責任を持つのか。
私が同席した商談や社内の会話では、会社側が、これまで実務上は配送できている、という趣旨で説明することがあった。
確かに、荷物が届いたという事実はある。運用できていることは、何もしていないより強い。
しかし、今まで止められなかったことと、条件を確認し責任を引き受けていることは違う。
検査されなかった。問題が表面化しなかった。少量だから通った。顧客から苦情がなかった。
これらは結果であって、設計ではない。
事業が大きくなれば、扱う数量、国、商品、顧客が増える。見つかる可能性だけでなく、実際に問題が起きる可能性も増える。
海外へ広げることは、売上の範囲を広げることではない。
責任の範囲を広げることである。
信用を返す
他者の商品を扱う商売は、他者が積んだ信用を借りる。
借りること自体が悪いのではない。流通は、信用をつないで成立する。
ただし、借りた信用は、責任を通じて返さなければならない。
許可を確認する。表示を整える。販売者を明確にする。保管と配送を管理する。問題が起きたときの窓口を決める。ブランドと顧客の両方に説明できるようにする。
商品を右から左へ動かすだけなら、物は届く。
国境を越えると、説明が増える
国内で普通に売られている商品でも、国外へ移ると条件が変わる。成分、表示、容量、用途、保管、輸入者の責任。販売先の国によって、同じ物が同じ扱いになるとは限らない。
小さな荷物が実務上届くことと、継続的な事業として説明できることの間には距離がある。
その距離を埋める仕事は、売上画面には映らない。規制を調べ、専門家へ確認し、販売できない商品を除き、情報を現地向けに直す。場合によっては、売れそうでも扱わないと決める。
会社にとっては、売れる商品を外す判断になる。短期の数字は減る。
しかし、商流の価値は、動かした商品の量だけで決まらない。動かさなかった判断にも宿る。
「今まで届いた」という経験は、出発点にはなる。けれど、規模を大きくするなら、経験を条件と手順へ変えなければならない。
偶然通った道を、道路だと思わないことである。
信用まで無傷で届けるには、別の仕事がいる。

